近年、少子高齢化に伴う労働力人口の減少から、人手不足が一層の深刻化をみせ、日本経済の成長を著しく阻害する制約要因になってきています。人件費は高騰し、賃金を引き上げても応募がない、外国人や学生頼みのアルバイトですら集まらないなど、求人難から倒産する企業も少なくありません。
失業率は完全雇用とされる3%程度の推移が続いていましたが、2017年には2%台に突入、有効求人倍率も、求人数と求職者数が一致する1倍を上回り続けており、2017年12月で1.59倍、すでにバブル期の最高水準を超えるところまで上昇しました。
ある調査によると、人手不足を実感する企業の7割超は、すでに経営に影響が出ていると回答、人口動態や社会情勢からみて、今後もこの問題はより深刻なものとなりながら慢性的に続いていくと予測するなど、現場の声は逼迫したものがあり、早急な対策が求められています。
影響はあらゆる業種業態、企業規模に及んでいますが、中でも地方、とりわけ中小企業における問題は深刻です。国内の現状をふまえながら、先進的な取組事例を参考に、より有効な解決方法などを考えてみます。
商品やサービスを生産し、金銭などで取引、消費する活動の一連を経済といい、経済社会とは、消費者の家計、生産者の企業、政府から成るものをいいます。経済活動では限られた資源をいかに有効活用するかが重要であり、その資源には労働力ももちろん含まれます。原料や土地、資本が十分に存在しても、労働の要素が不足すれば、生産力を高めることはできません。
現在は政策による景気回復で成長率アップが促進されても、それに見合う労働力がない状態が続き、現場で人手不足が発生しているのです。少子高齢化や晩婚化が進む中、人口減少は今後加速度的に進行すると予想されていますから、主な働き手となる15歳から64歳の人口、いわゆる労働力人口はますます減少し、将来的には産業および経済の成長のみならず、現状の社会における豊かさを維持することも難しくなっていくと考えられます。
すでに24時間営業をとりやめる飲食店があらわれるなど、これまでの提供サービスにおける水準を見直し、適宜引き下げる向きも表面化してきました。しかし利便性を下げ、市場を縮小させるばかりでは、国も経済も衰退の一途をたどってしまいます。
ではこの問題に対し、どう対処すればよいのでしょうか。これまで通りの事業活動体制では解決方法が見出されませんから、減少した労働資源をふまえた改革、システムの改変が必要になります。
ある程度の事業規模があり、設備投資に余裕のある企業では、主にITツールやロボットを活用した労働を補う省力化設備の導入が進んできています。内閣府の調査でも国内における産業用ロボットの受注額は大きく伸びており、2017年の第1四半期には、前年同期比41%増を記録しました。
24時間365日の対応など、多くのスタッフが必要となる企業のコールセンターでは、AI技術を活かしたチャットボットによる接客サービスを導入するケースが増えています。ホテルやレストランの接客・受け付けをロボット化する例もあります。
スーパーなどでは、買い物客が自ら商品のスキャンと現金決済を済ませる自動のセルフレジがしばしば見られるようになりました。コンビニエンスストア大手のローソンでは、「レジロボ」という電子タグを用いたシステムの開発・試験導入を進めており、いずれもレジ業務の人員を削減、人手不足の解消方法としています。
物流現場でも、ウエアラブルデバイスの活用など、ITインフラの強化でピッキング作業の効率を高め、これまで10人で行っていた作業を7人で可能とするなど、ひとりあたりの生産性向上、労働資源の節約が図られています。このほか、土地の測量や広範にわたる空間の警備にドローンを活用するといった事例も人手不足に対応した最新の動向といえるでしょう。
一定以上の規模をもつ企業の場合、こうした設備投資を新たに行うことで高騰する人件費のコストを削減でき、利益の拡大、競争力の向上にもつなげることができます。しかし中小企業の場合、大規模な設備投資を行うことは現実的でなく、別の方策を考えねばなりません。
省力化による生産性向上を低コストでかなえるには、まず人の手によっている単純作業をクラウドサービスなど、新規設備投資をほぼ必要としない方法で自動化し、作業負担を軽減、空いた時間を別の業務に充てていくことが有効と考えられます。
かつてはシステムやプラットフォームを自社内に構築する必要がありましたが、今日ではこれらを仮想化、クラウド化し、ネットワーク上でビジネス利用することが可能になっています。これらのソリューションであれば、企業規模にかかわらず導入が容易で、ITによる人手不足対策が実現できるでしょう。
一方でこうしたシステムやサービスを複雑に組み合わせて活用していく場合、認証やアクセス権限の管理が問題となります。別のサービスを必要とするたびにID認証手続きを行っていたのでは、業務のスムーズな進行を妨げるものとなり、かえって効率を下げてしまいます。複数のパスワードの使い分けで管理が煩雑となり、オープンなファイル上や紙媒体で記録するスタッフなどが生まれれば、セキュリティ上の深刻な問題をもたらすものともなるでしょう。
また、設定内容の編集権限やデータの閲覧権限など、細やかなアクセス権限の管理も適切に行えなければ、情報漏洩や外部からの攻撃リスクを高めてしまい、事業活動そのものに大きな打撃を与えかねません。
そこでこれらの課題に対する解決方法として、シングルサインオンの導入が有効です。シングルサインオンの仕組みを構築することで、個々のスタッフは1回の認証でシームレスに必要なシステムへとアクセスが可能となり、効率よく業務に従事できます。
また、管理者が一括してアクセス権限をきめ細かく設定、複数のシステム・サービスにリアルタイムで反映させられるため、コストも手間も増やすことなく、全体をスリム化、適切な管理ポリシーに従った無駄のない運用状態を常に保っていくことができるようになるのです。
ITによる省力化では、セキュリティ面も大きな問題となるため、シングルサインオンで内部統制を徹底し、不審なアクセスやセッションが認められた場合には、すぐに対処をとれるよう整備しておくこともポイントとなるでしょう。
シングルサインオンの導入は、クラウドの可能性・利便性を、ビジネス利用に耐えうる堅牢なセキュリティ環境のもとで拡張するため、柔軟な就業形態への対応も容易にします。“働き方改革”で謳われるように、テレワークの活用などでより多様な人材を採用・活用できれば、新規雇用や離職率の低下も見込めるでしょう。
こうしたシングルサインオンとの組み合わせによる細やかなITの活用・環境改革であれば、中小企業でも実践できます。むしろそのフットワークの軽さを活かし、より柔軟で抜本的な対策をとれる面もあるはずです。労働を賢くスリム化した体制で、時代に対応していくことが重要となるでしょう。
(画像は写真素材 足成より)